日本が東洋のスイスになる選択はあり得るか?
日本がスイスやオーストリアのように永世中立国になる話をすると、必ずと言っていいほど中国や北朝鮮やロシアから侵略されると言って反対する人達が少なからずいることは、周知の事実である。しかし、日本を含めた極東アジア地域の歴史を振り返った時、日本は鎌倉時代にモンゴル民族に支配された元の侵略を2度受けたが、どちらも失敗に終わり、幸いにも他国から侵略されることはなかった。反対に飛鳥時代の天智天皇の時に朝鮮半島に攻め入り百済と組んで唐・新羅の連合軍と戦った白村江の戦いや豊臣秀吉の朝鮮出兵や満州事変から12年に渡る中国に対する侵略戦争など3度の侵略戦争を仕掛けたのは、日本の方だった。魏志倭人伝の中で239年に邪馬台国の女王卑弥呼が古代中国にあった魏の国に使いを送り、朝貢して冊封を受け【親魏倭王】の印綬と銅鏡100枚を賜ったのが、日本と中国の付き合いの始まりである。日本と中国・朝鮮との関係は、2千年にも渡る長い歴史の中で脈々と引き継がれ築き上げられて来た。そして、2000年の遥かに長い歴史の中で中国と朝鮮が日本に戦争を仕掛けたことは、一度もなかったのである。さて、日本がスイスやオーストリアのように永世中立国になった場合の、東アジア特に日本のある極東地域の経済、政治、軍事面においては、どのような影響が出るであろうか。まず初めに経済面における影響を考えて見よう。日本が永世中立国になって日米安全保障条約が無くなった場合、日本は約80年もの間続いたアメリカを中心にした自由主義経済体制から、永世中立国の立場でアメリカとも中国ともヨーロッパのEU諸国やアフリカ諸国やイランを含む中東諸国や中南米諸国と比較的自由に貿易を行うことが出来るようになるだろう。日米安全保障条約の下ではアメリカの国益に縛られて、自由に世界中の国々と貿易が出来ないことが度々あったが、永世中立国になって日本の国益だけを考えて、従来より自由に世界中の国々と貿易を行うことができるようになることは、資源の少ない貿易立国日本にとって大きなメリットになることは間違いない。現在、次世代通信技術5Gの世界標準を賭けて、アメリカと中国が熾烈な争いを行っている。この5Gの最先端の通信技術は、自動車の自動運転技術やIoTやAIの最先端技術と結びついているため、5Gの世界標準を獲得した国が、これからの世界経済を主導すると言われている。5Gの技術開発での特許獲得数と実際に5Gを市場に導入した研究開発の実験では、中国はアメリカを大きくリードしている。そのためアメリカは、かつてイギリスを宗主国としていたファイブ・アイズと呼ばれる英語圏5ヵ国で結ぶ機密情報共有ネットワークの参加国であるイギリス、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアと共同して、市場からファーウエイ、ZTE、ハイクビジョン、ダーファ、ハイテラなどの中国の通信機器や通信サービスを排除するために、法律により中国の通信機器関連企業と取引を禁止して、これらの企業と取引をした場合に制裁を科すことを決定して、5Gの世界標準を巡る中国との覇権争いに勝つために躍起になっている。また、アメリカは、ファイブ・アイズ以外の同盟国に対しても、中国の通信機器関連企業との取引を禁止するように強く働きかけ、取引した企業には厳しい制裁を科すことで、中国をアメリカを中心にした経済圏から徹底して排除することで、5Gの世界標準を巡る中国との競争での遅れを取り戻そうとしている。一方、中国は、アメリカのデカップリング政策に対抗するために、中国を中心にした新たな経済圏を作り出す努力を始め、上海協力機構には中国、ロシア、インド、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンなどの中央アジア諸国、パキスタンの他にイランやベラルーシなども加入手続をしており、その他にも南米のブラジルやアフリカ諸国も近い将来上海協力機構に参加が見込まれている。現在の上海協力機構の市場規模は、既に30億人を越えており、アメリカを中心とした経済圏に十分対抗できる市場規模になることが予想されている。5Gの世界標準を巡り、アメリカを中心にした市場から中国を排除するデカップリング政策は、中国を中心にした新たな経済圏を産み、今後アメリカを中心にした経済圏と中国を中心にした経済圏による世界経済の分断化が起こることが懸念されている。日本は永世中立国になることで、どちらの経済陣営にも所属せず、アメリカとも中国とも自由に貿易をすることが出来る道を選択すべきではないだろうか。そして、経済のブロック化を嫌った金融資本が、新たに永世中立国となって生まれ変わった日本に世界中から集まることが期待される。世界の金融資本が集まるところには、人と物が集まることは、歴史を見れば明らかである。特にアジアから若い優秀な人材が集まるのではないだろうか。優秀な人材が日本に集まることで、科学技術の研究開発が進み、日本経済の発展に大きく貢献することは間違いないだろう。また、新たな移民政策により若い優秀な人材を日本に積極的に受け入れることで、少子高齢化問題の解消につながるのではないだろうか。次に政治や軍事面において、どのような影響が出るのであろうか。日本が永世中立国になると今まで日本にあったアメリカの基地が無くなり、東アジア、特に極東地域の軍事的緊張状態が大きく緩和されるだろう。日本は永世中立国になると同時に北朝鮮とロシアと平和条約を締結することになるだろう。ロシア(ソ連)と平和条約を結び北方領土の返還を実現することは、初代自由民主党総裁であった鳩山一郎内閣の最優先課題であり、歴代自由民主党政権の念願の課題だったからだ。ロシアと平和条約を結び北方領土問題を解決して、北朝鮮との間でも平和条約を結び、植民地時代の戦後賠償を速やかに実施して、国交を回復することで韓国と北朝鮮の統一が一気に早まるのではないだろうか。そして、朝鮮半島の南北統一問題と同様に日本の植民地だったことが原因で、同じ民族が分断されている台湾についても、中国との統一が早まることが予想される。米ソ冷戦が終わり、ベルリンの壁が壊され南北ドイツが統一してから既に30年が過ぎた現在においても、朝鮮半島の南北の分断と台湾と中国の分断は解決されていない。極東地域におけるこれらの問題の解決が一向に進まないのは、冷戦が終わった後も極東地域における軍事的緊張状態が続いていることが主な理由である。具体的にいえば、日本にアメリカの基地があることで、朝鮮半島の韓国と北朝鮮の間に、そして台湾海峡を挟んだ中国と台湾の間に軍事的緊張状態が継続している。韓国と北朝鮮、台湾と中国の統一の問題は、それぞれの当事国同士の問題であるが、旧植民地として統治していた日本にも同じ民族を分断をさせてしまった責任はあるはずである。日本が永世中立国になることで、嘗て植民地として統治していた朝鮮半島や台湾が、本来あるべき姿に戻れるように積極的に働きかけを行うことが、日本に求められる責務である。