日中国交正常化50周年を迎えて思うこと。

2022年11月6日

1972年9月29日、当時の田中角栄首相と中国の周恩来首相は、北京で共同声明に署名し、恒久的な平和友好関係を確立することで一致しました。これにより戦後途絶えていた両国間の政府レベルでの国交が始まりました。そして、1978年8月12日【日中平和友好条約】が締結されて政府間及び民間レベルの本格的な交流が開始されました。2022年(令和4年)は、1972年9月29日に日中国交正常化をした時から、ちょうど50周年の節目を迎える年である。日中国交正常化に向けて当時の外務大臣大平正芳は、水面下で中国政府と交渉を行い国交正常化の中国側の条件を非公式なルートで探りを入れたといわている。当時の日本政府の懸念として、日中国交正常化の条件として中国政府が日中戦争の賠償金を求めた場合、日中国交正常化交渉を断念するより他に選択肢はなかったと言われている。日中戦争による中国側の犠牲者が2400万人とも3000万人とも言われるほど中国に与えた損害が大きかったからである。大平正芳は、非公式のルートを通じて日本政府に対して日中戦争の賠償金を求めないとの中国政府の意向を確認できたことで、当時の田中角栄首相の訪中が急遽決まった。1972年9月25日北京に到着した田中角栄首相をはじめとする日本政府の訪中団は、その夜人民大会堂で開かれた周恩来首相主催の晩餐会に招待され盛大な歓迎を受けた。田中角栄首相は、晩餐会で約700名の中国側の出席者を前に中国側の盛大な歓迎に感謝を表明した後に次の挨拶をした。「過去数十年にわたって、わが国が中国国民に多大なご迷惑をおかけしたことについて、私は改めて深い反省の念を表明する」と述べた。それまで明るい雰囲気の歓迎ムードで田中角栄首相のスピーチを聴いていた中国側の出席者達が、一瞬水を打ったように静まり返った。この時、田中角栄首相が使った迷惑をかけたという表現は、中国では女性のスカートに誤って水をかけてしまったような場合にしか使われない言葉だったからである。明るい歓迎ムードで開かれた晩餐会もそのスピーチの中で使われた軽い謝罪の言葉のために、日中国交正常化交渉が一時暗礁に乗り上げてしまい日本政府の訪中団は、交渉を断念して日本に帰国しなければならない状況に追い込まれた。日中国交正常化を目の前にして、一時的に険悪ムードの流れる中で毛沢東が【周恩来首相との喧嘩は終わりましたか】と田中角栄首相に声をかけてもらったことにより、険悪ムードだった雰囲気が一瞬にして変わり、日中国交正常化交渉が纏まったと言われている。この時、中国政府は、日中国交正常化の条件として日本政府に対して日中戦争の賠償を一切求めないことと、領有権を巡って対立する尖閣諸島については、触れないことにして日本政府の顔を立てた形で交渉が成立した。当時、日中国交正常化が日中間で纏まるまでに、中国国内には、日本政府に対して賠償を求める人達が多くいたと言われている。日中戦争で犠牲になった多くの人々の家族等に対して周恩来首相は、粘り強く説得したと言われている。日本が敗戦後、アメリカを中心にしたGHQによる極東軍事裁判(東京裁判)では、東条英機元首相、広田弘毅元首相ら7名のA級戦争犯罪人が死刑の判決を受けて絞首刑にされた。横浜やマニラを含む極東軍事裁判では、約1000名のBC級戦争犯罪人が死刑判決を受け、刑が執行された。中国における日本の戦争犯罪を裁く軍事裁判は、中国国内における国民党と共産党の内戦により、中国共産党が国民党に勝利して、1949年に正式に中華人民共和国が樹立した後、1950年代になってから開始された。そして、約1500名の戦争犯罪人容疑者に対する裁判が行われた。周恩来首相は、死刑と無期懲役刑は、一人も出さないように指示し、起訴された者達の殆どが罪を許され、最高刑で懲役20年の判決を受けた者も10年で刑期を終えて日本に帰国させたと言われている。裁判で死刑判決がでる度に周恩来は、減刑を支持して日本人の戦争犯罪人容疑者から一人の死刑も無期懲役も出さなかった。日本軍に家族や親類が殺された者達から激しい抗議を受けた周恩来は、一人も死刑や無期懲役を出さないことで将来中国のためにきっと日本が大きな力になってくれることを粘り強く説得したと言われている。日中国交正常化から今年で50周年を迎えて、日中国交正常化のために多くの人達が尽力した結果、日中平和友好条約を結ぶことができたこと。そして、日中両国間に民間レベルでも大きな交流が生まれたことを考えた時、現在日中間で問題になっている尖閣諸島の領有権問題や台湾と中国の間で高まる軍事的な緊張状態などの問題についても、決して平和的な外交手段によって解決できない問題ではないはずだ。現在、自民公明の連立政権は、防衛費のGDP比2%(11.8兆円)を目標に大幅な防衛費の増額方針を打ち出している。その中には潜水艦にトマホーク巡航ミサイルを搭載させるなどの、敵基地攻撃能力を備えた防衛力強化に向けて具体的な議論が進んでいる。従来防衛力については、憲法9条に反しない範囲で専守防衛に徹するのが基本原則ではなかったか。防衛力を増強することは、安全保障上必要なことではあるが、空母の保有やトマホーク巡航ミサイルを備えた潜水艦を保有することが、かえって平和的外交手段の妨げになる場合もあるということも忘れてはいけない。日中間で起こった不幸な戦争の歴史の中で、わが国は多くの犠牲者と甚大な被害を中国国民に与えたことを決して忘れてはいけない。そして、過去の不幸な戦争の大きな犠牲を乗り越えて日中国交正常化が実現したことと、そのために尽力した両国の関係者達の苦労を考えた時、将来に渡って友好的な日中関係を継続させていくために、何が必要であるのかが自ずと見えて来るのではないだろうか。トマホーク巡航ミサイルが日中の友好関係のためになることは、決してないのだから。

Posted by たっちん