日本のプライマリーバランスの現状と防衛費をGDP比2%(11.8兆円)に増額することを決定した政府自民党の政策は正しいか?
政府自民党は、年末にかけて安全保障政策の重要な指針である【戦略3文章】の改定を行い、その中で来年度以降5年以内に現在の防衛費GDP比1%にあたる5.4兆円を倍増してGDP比2%の11.8兆円にすることを決定した。政府自民党による防衛費増額の根拠は、北大西洋条約機構(NATO)が防衛費をGDP比2%以上を目標にしていることをあげ、日本の防衛費もNATO並みの防衛費にすることが必要であると主張している。北大西洋条約機構(NATO)は、1949年4月4日にアメリカのワシントンで調印された北大西洋条約を実装する軍事同盟でアメリカ、カナダを含む30か国が加盟している。北米以外の28か国は、現在のEU加盟国とほぼ同じである。EU (加盟国27か国)の名目GDPは、およそ1,500兆円でGDPに対する国債発行残高(EUの負債)の割合は、90.7%であり、EUの中で財政状況が良いドイツのGDPに対する国債発行残高の割合は、69.8%である。一方日本の名目GDPは、およそ500兆円でGDPに対する国債発行残高は、国が1,000兆円と地方の200兆円を合わせた合計で1,200兆円もの多額の借金を抱えており、GDPに対する国債発行残高の割合も250%を越えている。政府自民党が防衛費を2倍にする根拠を北大西洋条約機構(NATO)が目標にしている防衛費(GDP比2%)をわざわざ取り上げて、防衛費の増額を正当化しようとしているが、財政状態の良いNATO加盟国と国の借金がGDP比250%を越えてしまった数字だけ見ると破綻状態にある日本がNOTOと同額の防衛費にすることを主張するのは、隣の家が最近ベンツを買ったから我が家もベンツが欲しいというのと同じくらい自民党の考え方が幼稚に思えるのは私だけだろうか?そもそもGDPで世界3位の我が国の財政状態がなぜこれほどまでに悪化してしまったのか?国の財政状況を見る時に、プライマリーバランスという言葉が良く使われる。プライマリーバランスが健全な状態では、国は税収で公共事業や教育や社会保障費を全て負担することができる。しかし、プライマリーバランスが赤字の場合、税収で賄いきれない支出は、国債を発行するため国の借金が増えることになる。2021年度の我が国の財政状況を見ると税収で負担した支出が予算の60%で、残り40%が税収では賄い切れずに新規国債の発行でカバーしているのが現状である。現在の財政状況を見ると国債発行残高1,200兆円で、GDPに対する国債発行残高の割合は既に250%を越えており、この数字だけを見ると日本は破綻状態にあると言っても過言ではない。しかし、わが国の国家財政が、昔からずーと破綻状態であったわけではない。日本の国家財政が現在のように危機的な破綻状態になる前の1990年のわが国のプライマリーバランスと2021年度のプライマリーバランスを比較することで、わが国の財政状況が30年かけて急速に悪化して来たことがわかる。1990年度と2021年度のプライマリーバランスを比較すると、どちらも税収は増えているものの、社会保障費が1990年度の3倍になってしまったため赤字幅が大きくなり、財政状況が著しく悪化している。社会保障費とは、【年金】【医療】【介護】【子供・子育て】などの分野に分けられており、歳出の1/3を占める最大の支出項目です。中でも【年金】の支出が最も多く、次に【医療】、【介護】、【子供・子育て】と続いている。2021年度のプライマリーバランスの中で【年金】の占める割合が高く、1990年度に比較して支出金額が3倍に膨れあがってしまった理由は、第一次ベビーブーマー世代(806万人)が、定年退職を迎えて65歳以上になってしまったことがその主な理由に挙げられる。政府自民党は、少子化問題に対応すべく1989年に少子化対策を中心にした社会福祉にあてるため、消費税の導入を決定して1989年度から日本で初めて3%の消費税を導入した。この時は、第一次ベビーブーマー世代は、まだ現役世代であったため現在ほど高齢化が進んではいなかった。しかし、自民党は消費税の導入を実現したにも関わらず、消費税を社会福祉のためだけに使う目的税にせず、所得税や法人税と同じように一般財源として国債の償還を含む全ての歳出予算に利用して来たため、少子化は消費税導入後も改善されることなく悪化の一途を辿り、第一次ベビーブーマー世代が65歳を過ぎて、遂に高齢化社会が到来してしまった。そして、現在においても未だ少子化問題が改善される見通しすらつかず、少子化に加えて高齢化が加わった少子高齢化社会の極めて危機的な状況から抜け出せずにいる。そのような状況であるにも関わらず政府自民党は、一向に効果の出ないその場しのぎのバラマキ政策を改めることなく未だに続けている。わが国の少子化は、1972年(昭和47年)に婚姻数110万組、出生数2,091,983人を境に婚姻数、出生数、出生率が減少を続けている。消費税が初めて導入された1989年(平成元年)に婚姻数707,716組、出生数1,314,006人であったのに、2021年(令和3年)の婚姻数501,116組、出生数811,604人と婚姻数で206,600組減少し、出生数で502,402人も減少した。そして、先日の政府の発表では、2022年度の出生数は、戦後初めて80万人を割り前年度より5%減少の77万人前後になる見通しであるそうだ。消費税導入後の少子化の推移を見ると、政府自民党が犯した2つの大きな誤りが見えて来る。第一に少子化対策のために消費税を導入したにも関わらず、消費税を少子化対策のために集中して使わなかったこと。第二に1986年に制定され、1999年に原則自由化された労働者派遣法の施行である。労働者派遣法の施行により20代~30代前半の結婚適齢期世代の3割強の若者達が正規社員になることが出来ず、非正規として不安定な労働条件の下で働かなければならなくなった。そのため結婚の晩婚化が進み、婚姻数の減少と出生率の更なる減少に歯止めがかからず、政府自民党の政策が少子化問題をより一層加速させてしまった。プライマリバランスの黒字化のために必要なことは2つある。第1に税収を増やすこと。第2にコストを削減することである。税収を増やすためには、景気を良くして法人税や所得税、消費税の税収を増やす方法と景気を無視して税率を上げる方法が考えられるが、景気を無視した増税は景気を減速させ結果的に税収入の減少になる。次にコストを削減するためには、歳出項目に優先順位をつけて次年度に先送りできる項目と今年度に必ずやらなければならない項目に選別して、歳出額を減らすようにすること、また新規国債の発行を極力抑えることが重要である。また、税金の使われ方には、2つのタイプがあることを忘れてはいけない。第1に将来2倍、3倍になって国に戻って来る子育てや教育に使われる歳出と防衛費などのようにコストにしかならない歳出がある。現在のように日本の国債発行残高がGDP比で250%にもなる極めて財政状況の悪い時は、将来の財政状況の改善に大きく寄与する子育てや教育に対して、限られた歳出額の中で優先的に使うことが何にもまして重要である。政府自民党が声高に主張する防衛費のGDP比2%に倍増する方針は、現在のわが国の財政状況を完全に無視したものである。政府自民党は、消費税導入以来30年間続けて来た間違った少子化対策により、返って少子化の流れを加速させてしまった。そして、同じ過ちを再び繰り返そうとしている。なぜならば、15年後には第2次ベビーブーマー世代が65歳を迎える時が来るのである。防衛費5.4兆円の増額は、400万人の子供達の専門学校と大学の授業料の完全無償化に利用した場合、一人に年間1,350,000円を支給することができる金額である。現在、多くの学生が返済の必要な奨学金を借りて専門学校や大学に通っている。中には生活費を自ら稼ぎながら勉強をしている学生も珍しくはない。生活費を稼ぐためにアルバイトに追われて、卒業を待たずに中途退学する学生も少なからずいるといわれている。また、無事に卒業しても就職してから40歳になるまで奨学金の返済に追われているのが現実だという。もし、仮に政府が防衛費の増額をせずに5.4兆円を子供達の専門学校や大学の授業料の完全無償化のために使えば、少子化の原因になっている晩婚化や婚姻数の減少や出生率の低下を防ぎ、出生率の増加に導くための即効薬になることは間違いない。そして、5年後、10年後、15年後の第2次ベビーブーマー世代が65歳になる前に少子高齢化問題の改善効果が目に見えて明らかになるはずだ。そもそも政府が目の色を変えて議論している敵基地先制攻撃能力を備えるための防衛費の増額は、北朝鮮の核開発と繰り返し行われているミサイルの発射実験に対する防衛手段のためだと政府自民党は、国民に対して説明しているが北朝鮮が核を持っに至った原因は、アメリカにあるのではないか。1950年6月25日に始まった朝鮮戦争は、1953年7月27日に中国、北朝鮮とアメリカを中心にした国連軍、韓国との間で休戦協定が結ばれ3年間続いた朝鮮戦争は、一時的に終結したが69年経った現在においても38度線の休戦ラインを挟んで、北朝鮮との間で戦時状況が続いている。今に思えば1972年2月に当時のアメリカのニクソン大統領が訪中して、米中共同声明を発表し朝鮮戦争以来続いた米中の対立が解消され和解が実現した時に北朝鮮とも国交を回復していれば、北朝鮮が核を持つことはなかったのである。当時のアメリカは、米ソ冷戦の最中、ソ連と対立していた中国と国交を回復することで、ソ連に対抗する手段になると考えていた。また、泥沼化の状態であったベトナム戦争を終結させるためにベトナムを支援していた中国の協力が必要であったため、中国と国交を正常化させたと言われている。けれど、北朝鮮はアメリカにとって国交を正常化させるだけの価値がなかった。アメリカにとって北朝鮮と国交を回復させるより、38度線で休戦状態のままにして置いた方が戦略上都合が良かったのだ。なぜなら、米ソ冷戦下において極東アジアにおけるアメリカの戦略上、日本と韓国に米軍基地を置き続けるためには、北朝鮮をいつまでも休戦状態にしておくことが必要だったのである。また、当時アメリカは、北朝鮮が核を開発することが出来るとは、全く考えていなかった。北朝鮮の核とミサイルの防衛に対するコストは、朝鮮戦争の当時国であるアメリカが負担すべきもので、本来日本国民が負担すべきものではない。日本政府は、そのことをアメリカに強く主張すべきではないか。日米安全保障条約によって日本は、アメリカの核の傘に守られているが、日米安全保障条約があるために返って日本の国益を損なうのであれば、いつでも日米安保を破棄する選択があることをアメリカに対しての外交手段として主張しても良いのではないか。なんでもかんでもアメリカの言いなりになることが、本来の同盟関係ではないのだから。政府自民党は、アメリカの国益を優先する前に、日本の国益を第一に考えなければならない。それが日本の取るべき自立した国家のあるべき姿だと思う。