台湾海峡で高まる中台間の軍事的緊張と台湾統一地方選挙の結果について
11/26に投票が行われた台湾統一地方選挙で与党民進党が野党国民党に大敗して蔡英文総統は、民進党主席の辞任を表明した。8/2深夜、アジア歴訪中のペロシ下院議長の突然の台湾訪問以来、台湾海峡をめぐる軍事的緊張状態が高まり、中国共産党大会で台湾の統一を目指す習近平国家主席の異例の3期目の続投が発表された後の今回の統一地方選挙ということもあり、台湾の統一地方選挙は世界的に注目を集めた選挙になった。普通、台湾の統一地方選挙の時は、総統選挙と違い経済や福祉といった市民の生活に関わるスローガンを掲げて行われるのが一般的であるが、ペロシ下院議長の訪台に反発した中国が台湾を取り囲むように6か所の海域と空域で大規模な軍事演習を行い、それに対してアメリカのバイデン政権は、【台湾関係法】に基づき、前トランプ政権がこれまで台湾に売却して来たF16戦闘機、M1A2エイブラムス戦車、スティンガー携帯型地対空ミサイル、パトリオットミサイルなどを含む多額の最新鋭の武器に対する維持や保守、改良に向けた関連機器やサービスの1億ドルの台湾への売却が議会で承認され発表したこともあり、高まる台湾海峡の緊張を背景に民進党の蔡英文総統は、選挙選で対中関係を争点化した他、蔡英文政権の信任投票とも位置付けて今回の統一地方選挙に臨んだ。22の市長選挙と知事選挙の結果、与党民進党は、前回の選挙で勝った桃園など北部3つの市を失い、全部で5つの市長と知事のポストを得るにとどまった。一方、台湾総統の登竜門とされている台北市長には、初代国民党総統であった蒋介石の曾孫の蒋万安氏が与党民進党の候補を破り、国民党が8年ぶりに首都台北の市長を奪還し、候補者の死去に伴って投票が延期された1つの市を除く21のポストのうち、13の市長と知事のポストを獲得した。台湾は、中国共産党との闘いに敗れた国民党の蒋介石が、台湾に逃れて以来、およそ50年に及び国民党の一党独裁を経て2000年5月に行われた台湾総統選挙で初めて民進党の陳水扁氏が国民党を破り、台湾総統に選ばれた。陳水扁総統は、台湾の独立を強く主張して従来の親中国路線を取る国民党の政策から大きく方向転換を行い、国際社会の中で台湾の独自性を鮮明にした。その後、国民党の馬英九氏が2期8年続いた民進党政権から政権を奪取して、従来の国民党の親中国寄りの政策を行い中国との関係改善に大きく貢献して2期8年の任期を全うした。そして、2016年5月の台湾総統選挙では、女性として初めて蔡英文氏が民進党主席として台湾総統選挙に臨み、国民党候補に大差をつけて勝利し、台湾総統に就任した。台湾の総統選挙の歴史は、国民党の李登輝氏が総統の時に初めての台湾総統選挙が実施された。1990年5月20日台湾で初めて行われた台湾総統選挙で選ばれた李登輝総統から現在の蔡英文総統になるまでに4人の台湾総統が台湾のリーダーとして国政のかじ取りを行って来た。台湾の総統は、1期4年で2期までしか続けることができない。台湾総統選挙が始まってから台湾の民主主義の歴史を振り返ると国民党と民進党が交代で政権を担当して来たことがわかる。台湾の1/4は、親中国の国民党支持者で1/4は、台湾の独立を主張する民進党の支持者、残り2/4は現状維持を望む人達から台湾の有権者は成り立っている。中国との関係が良くない時は、現状維持派の人達は民進党に投票し、中国との関係が良い時は、国民党に投票するため国民党と民進党がまるで時計の振り子のように交互に入れ替わることを繰り返して来た。今回の台湾の統一地方選挙では、総統選挙ではないが蔡英文政権に対するアメリカの武器供与などの関与が大きくなりすぎて、過度に中国を刺激して台湾海峡の軍事的緊張が高まったことで、現状維持派の人達が親中国の政策をとる国民党に投票して、これ以上中国との間で軍事的緊張を高めないようにすることを求めたことが選挙の結果に表れたように思える。選挙後、EUやオーストラリアの政治家達が相次いで台湾を訪問して、統一地方選挙で大敗北をした蔡英文総統と会談して民主主義のために今後も台湾を支持することを表明した。また、自民党の萩生田政調会長も自民党の党3役として19年ぶりに正式な国交のない台湾を訪問して蔡英文総統と会談して、台湾に対する支援を今後も続けることを表明した。これまでアメリカと日本及びEUは、【一つの中国】政策を台湾に対して取り、台湾を中国の一部分とする政策を続けて来たが、このところアメリカの台湾に対する関与が従来のアメリカ政府に比べて度を越し過ぎているように思える。F16戦闘機や最新鋭の無人爆撃機やパトリオットミサイルの大量売却など今までのアメリカ政府では、決して行わなかった軍事物資の売却行為や台湾でのアメリカ軍による軍事訓練の実施などが中国政府を刺激して、一層台湾海峡の緊張をエスカレートさせている。独立を要求して独立のための住民投票を実施しようとしているイギリスのスコットランド自治政府やスペインのカタルーニヤ自治政府に対して、もし仮に他の国が独立をけしかけたり、武器を供与したり、軍事訓練を行ったらどうだろうか。これらのことは、他国に対する内政干渉であり、決して行ってはならないことだ。アメリカやEUや日本政府が行っていることは、中国に対する内政干渉にならないか?今回の台湾の統一地方選挙で台湾の人達が示した民意は、十分尊重されるべきであり、選挙の後にわざわざ正式な国交のない台湾を政府与党の3役が訪問して、蔡英文総統と会談する必要があったのか?台湾の人達が選挙で民意を示して中国との緊張緩和を選んだのに、台湾を訪問して再び緊張を煽ることをして一体日本の国益になるのか?先日岸田政権は、防衛費を現在の5.4兆円から大幅に増額して、GDP比2%の11.8兆円に大幅に増額することを閣議決定した。そして、敵基地先制攻撃能力を備えるためにアメリカからパトリオットミサイルを大量に購入することも決定した。台湾海峡の軍事的緊張は、今回の台湾統一地方選挙での台湾の人達の民意によって解消されたが、日本政府がアメリカに従って台湾に今後も必要以上の内政干渉を続けることは、わが国の安全保障にとって極めて危険である。日本は防衛費を増額して、敵基地先制能力を備えることで、台湾海峡の軍事的緊張を含む安全保障対策とする方針を打ち出しているが、1972年にアメリカと日本は、中国と国交正常化をした時から台湾を中国の領土の一部として外交政策を行って来た。そして、1978年8月12日に日本と中国との間で【日中平和友好条約】が締結され日本政府は、それまで国交を結んで来た台湾との国交を断絶して、台湾は中国の領土の一部であることを条約の中で承認したのではなかったか。岸田政権は、万一台湾海峡で有事が起こった時は、台湾を防衛するアメリア軍の後方支援をすることを明言しているが、【日中平和友好条約】において日本政府は、台湾を中国の領土の一部であることを承認しているため台湾を支援することは、中国に対する明らかな国際条約違反になるのではないか。なぜならば、【日中平和友好条約】において台湾が中国の領土の一部であることを承認しているため、台湾と中国の間で戦闘状態が発生した場合、台湾が中国政府に対して反乱または内乱を起こしたことになる可能性が極めて高いからである。その場合、日本政府は、内乱を起こした台湾政府を【日中平和友好条約】に反して、本当に軍事的支援が出来るのであろうか。台湾海峡の有事に際して、万一沖縄などの台湾に近い日本の領土に被害が及ぶ場合は、専守防衛のため必要な防衛手段を取るべきであるが、日本の領土に損害が及ばない場合は、アメリカ軍の後方支援を決して行うべきではない。日本の安全保障を第一に考えるならば、防衛力の強化ではなく、むしろ平和的な外交によって台湾と中国の間に友好関係がいつまでも続くことができるよう協力すべきであると思う。台湾と中国の問題は、あくまでも台湾と中国の人が決めるべきことで、アメリカや日本が口出しすることではない。