岸田政権の原発政策の大転換と安全保障政策の大転換について
昨年末、岸田政権は、東日本大震災による福島第一原発事故以来、政府が一貫して取って来た【脱原発】の方針から原子力発電を最大限に活用する方針に原子力政策を大転換することを決定しました。新たな原子力政策では、廃炉となる原発の建て替えを念頭に次世代型の原子炉の開発と建設を進める他、最長で60年と定められている原発の運転期間についても審査などで停止した期間を除外し、実質的に上限を超えて運転できるようにするなど原発を最大限活用する方針が打ち出されました。今回の原子力政策の大転換は、防衛費のGDP比1%(5.4兆円)から倍増してGDP比2%(10.8兆円)に大幅な増額を行い、従来の専守防衛から敵基地先制攻撃能力を備えた防衛力の拡大を決定した時と同様、国会における十分な議論もされず、国民に対して十分な説明もされずに決定されました。国民にとって安全保障政策とエネルギー政策は、国際社会の中でのわが国の在り方を示す大変重要な基本政策です。そのような重要な基本政策が、従来の政策から全く異なる政策に大転換する場合は、国会において十分な議論を尽くすことは勿論、国民に対しても丁寧に説明をするべきではないでしょうか。その上で選挙を行い国民の審判を仰ぐべきではないでしょうか?。しかし、岸田政権は国民の意見を無視したかたちで、一方的に政策転換を簡単に決めてしまいました。この度の岸田政権による安全保障政策と原子力政策の大転換を決定するまでのプロセスで共通していることは、国民に対して必要以上の情報を与えないことです。ロシアによるウクライナへの軍事進攻により高騰したエネルギー資源の価格を少しでも抑え、CO2の排出量を減らして地球温暖化を止めるためには、原子力発電所をこれからも最大限利用して行くと岸田首相は、報道各社のインタビューに答えていますが、東日本大震災以来、政府が一貫して続けて来た【脱原発】からなぜ原発を最大限利用する政策にエネルギー政策を大転換するのか、岸田首相は、まだその説明を国民に対して行っていない。そして、福島第一原発の放射能漏れ事故により原発周辺に住んでいた多くの人達が、長年住み慣れた地域を離れて避難生活を余儀なくされ、今尚避難生活をしている人々がいることを岸田首相は、どう考えているのか。また、福島第一原発の放射能汚染がされた冷却水の処理もまだ始まっていない。【安心安全】を謳った国の原子力政策は、国にとって起こるはずがはずがなかった想定外の東日本大震災によって、3つの原子炉が同時にメルトダウンを起こす世界最悪レベルの原子力事故が引き起こされた。そして、原発の安全神話は、東日本大震災の津波により跡形もなく木端微塵に崩れ去った。また、福島第一原発から漏れる放射能汚染水による海洋汚染を理由に、福島県や岩手県、茨城県、千葉県で捕れた魚貝類などの水産物や果物、野菜などに対しても風評被害が及び、つい最近まで海外の国々から輸出制限がかけられていたため漁業、農業にも大きな被害が及んだほど福島第一原発事故による被害は、甚大なものであった。原発事故により放射能汚染された町や海や山が元の状態に戻るまでに百年にも渡る気の遠くなるほどの時間がかかることを我々は学んだ。しかし、岸田政権は福島第一原発事故が発生してからまだ11年しか経っていないにも関わらず、また福島第一原発の廃炉処理も未だ始まっていない内から、これからも原発を最大限利用するという原子力政策の大転換の方針を打ち出したことに対して、大きな危惧の念を抱かざるを得ない。長年多くの原子力の専門家や学者達から地震による津波の危険性を指摘されながらも、原発に甚大な被害の及ぶ津波が発生することはありえないとして、十分な対策を講じて来なかった国や東京電力は、福島原発事故による損害賠償を求める民事裁判で、口を揃えて東日本大震災による津波は、事前予測ができないくらいの想定外の規模であったことを理由に無罪を主張した。今の東京電力と国の姿勢には、東日本大震災による福島第一原発事故に対する反省のかけらも見られない。国会での十分な議論も行われないまま、政府の新しい原子力政策を一方的に国民に対して押し付けるやり方では、決して国民の納得は得られないだろう。一方防衛費の大幅な増額により従来政府が、長年にわたり守って来た専守防衛に徹した安全保障政策から敵基地先制攻撃能力を備えた防衛力を備えるために、長距離ミサイルの開発・製造やアメリカから大量のトマホーク巡航ミサイルを購入する等のために、防衛費を現在の2倍に増額することについても、増額した防衛費の具体的な内容も財源をどうするのかの議論もしない内に、岸田政権は閣議決定しました。この閣議決定後、防衛費の倍増を行うため国民に対してロシアによるウクライナ侵攻を理由に挙げ、北朝鮮により繰り返されるミサイル発射実験や中国による台湾に対する近い将来起こりうる軍事進攻に備えるためと云う説明で、漠然と国民の不安を煽るやり方で一方的に防衛費の大幅増額を決定しましたが、政府は国民に対して何故北朝鮮がミサイル発射実験を繰り返すのかや、日本と中国と台湾の関係、日本は1972年にそれまで開いて来た台湾との国交を閉じて、中国との間で日中平和友好条約を結び中国との間で国交を結んだこと、そして、台湾は中国の領土の一部であることを日本政府として条約の中で承認していることや、なぜ中国と台湾の間で軍事的緊張状態が続いているのか、また近い将来中国が台湾に軍事進攻をする可能性があるのかについて、また、中国と台湾との間で有事が起こった場合、日本政府は日中平和友好条約の中で台湾を中国の領土の一部として承認しているため、台湾を中国政府に対して反政府軍と見るのが条約上国際法上の解釈として正しい捉え方であるように思えるが、もし台湾有事の際、日中平和友好条約に反して日本政府が台湾を軍事的に援護できるのか、または台湾を守るアメリカ軍の後方支援をすることが出来るのかについて、岸田政権は国民に対して何も説明していない。北朝鮮のミサイル問題も中国の台湾に対する軍事進攻(台湾有事)の問題も、政府はロシアによるウクライナ侵攻と同一である云う乱暴な説明を繰り返すことで漠然と国民の不安を煽っている。北朝鮮のミサイル問題は、1950年6月25日に始まった朝鮮戦争に端を発している。3年間続いた朝鮮戦争は、1953年7月27日に38度線付近の板門店で朝鮮民主主義人民共和国、中華人民共和国と大韓民国、アメリカを中心にした国連軍との間で休戦協定が結ばれ一時的に終結したが、その時から69年が過ぎた現在も38度線を挟んでアメリカ、韓国と北朝鮮は今尚戦時下の状態が続いている。1972年2月にアメリカのニクソン大統領が訪中し米中共同声明を発表して、米中和解が実現した。そして、1979年1月1日に鄧小平副主席が中国の要人として初めてアメリカを訪問し、カーター大統領との間で米中国交正常化で合意した。その時、アメリカはなぜ朝鮮戦争で中国と一緒に戦った北朝鮮とは国交正常化を行わなかったのか。1972年7月には、ニクソン訪中を受けて南北共同声明を出して北朝鮮と韓国は大きな歩み寄りの姿勢を見せていたし、当時北朝鮮はまだ核開発は行っておらず、ミサイルも所有していなかった。もし、1972年に中国と国交正常化に向けた交渉を開始した時にアメリカが北朝鮮とも国交正常化に向けた歩み寄りを行っていたなら、その後北朝鮮が核開発を行うことはなかっただろう。ニクソン大統領の突然の中国訪問は、当時泥沼化したベトナム戦争を終結させるためベトナムを支援していた中国に接近して、和平の道を探ることであったと云われている。また、当時中国と対立していたソ連をけん制するために中国と和解して国交正常化を行ったとも云われている。その一方でアメリカにとって北朝鮮との国交正常化は、あまりメリットがなかった。北朝鮮と国交正常化を行って朝鮮半島の南北分断による軍事的緊張状態を和らげ南北統一の環境を作るより、朝鮮半島を38度線で分断させたまま休戦状態にした方がアメリカにとって都合が良かったのだ。なぜなら、当時まだ米ソ冷戦は続いており、極東地域においてソ連をけん制するために日本と韓国にアメリカが基地を持ち続けるための大義名分として北朝鮮との戦争を終わらせることなく、休戦状態のままいつまでも戦時状態にして置く方がアメリカにとって戦略上好都合だったからだ。また1972年当時、北朝鮮は核を持っておらず将来核を開発できるとは、アメリカは予想もしていなかった。朝鮮戦争の休戦協定から69年が過ぎた2023年1月になった現在、今尚北朝鮮がミサイル実験を繰り返している理由はただ一つ、アメリカとの間で朝鮮戦争を終わらせて国交正常化をすること以外に目的はないことは明らかだ。岸田政権は、国民に対して北朝鮮がなぜミサイル発射実験を繰り返し行っているのかというミサイル問題の本質的な説明をせずに、ロシアによるウクライナへの軍事進攻と同一問題として扱うことにより軍事費の大幅な増額を行う口実にしているが、本来1972年にアメリカと中国が国交正常化をした時に、アメリカが北朝鮮と国交正常化を行っていれば既に解決されていた問題であった。そのことを考えると岸田政権が防衛費を倍増して敵基地先制攻撃能力を備えるよりも、アメリカと北朝鮮の間に立って朝鮮戦争を終結して、国交正常化をするように外交手段を最大限に使って働きかけることの方が、よりわが国の国益にかなっているのではないだろうか。朝鮮戦争を終わらせる条件としてトランプ政権が北朝鮮に出した条件では、北朝鮮が最初に核を放棄することを強く求めたと云われているが、イラクやリビアを例に出して北朝鮮は、アメリカの条件を拒否したと云われている。それでは、北朝鮮が飲める条件を出して、兎に角朝鮮戦争を終結させることが何にもまして重要なことであるはずだ。まず、朝鮮戦争を終結させた後、1年以内に北朝鮮は核を全面的に廃棄する。一方、アメリカは、1年以内に韓国からアメリカ軍の基地を撤収するという条件であれば国交正常化のための平和交渉は、進め易いはずだ。朝鮮戦争休戦から69年もの間、アメリカは米ソ冷戦の戦略上、北朝鮮との間で戦時状態を続けて来た責任と1972年に中国と国交正常化をした時に北朝鮮と国交正常化をせずに無視して来たことが、北朝鮮の核開発に繋がったことを考えるとアメリカにも大きな責任はあるのだから。